2013年1月15日火曜日

返却の旅

先日、特別展でお借りしていた資料の返却に行ってきました。

大変貴重な資料ですので、私がカバンに入れて電車で行くわけにも、車に積んでお届けするわけにも行きません。


そこで梱包、輸送は専門業者にお任せします。ただ、任せっぱなしではなく、私は担当者としてすべての行程に責任を持って立ち会うことになります。資料の状態や取扱い方を一番知っているのは学芸員ですので、資料の弱いところを的確に伝えて、梱包が適切かどうかをチェックし、積込み、輸送中、すべてにおいて細心の注意を払わなければいけません。


ご覧のとおり、厳重に梱包が終了し、美術品輸送車に積み込みます。
さすがはプロですね。資料の状態に応じた的確な梱包方法、梱包準備から積込みまでの手際の良さは、私も大変勉強になります。

今回は大分方面と東京方面の返却でした。私は、美術品輸送車に同乗し、資料と一緒に旅をすることになりました。
  

まずは、大分県玖珠町に到着。まず、久留島氏の肖像画をお届けしました。


玄関先で、「お届けに参りました。確認のサインを。」というわけにはいきません。
資料を広げて、破損などは無いかを所蔵者の方と一緒に確認をします。
その時は、「ここの破れはもともとなかったと思う。」、「いや、前からあったはずですよ。」、「いやいやそんなことはない。」
なんて、話にならないように、借用時に資料の状態を記録した「借用調書」と見比べながらの確認になります。この資料調書の作成は返却時のトラブルを避けるためということもありますが、何よりも、資料の現状を学芸員と所蔵者が一緒に確認をし、それを記録しておくという意味で、大変重要な作業になります。

大分県玖珠町からお借りした資料は、破損などもなく、無事に返却をすることができました。

大分から一度村上水軍博物館に帰り、次は東京方面への返却に向かいます。
愛媛から東京へは、通常、新幹線や飛行機で行くことが多いのですが、資料返却の際は、やはり美術品輸送車に同乗し、資料と一緒に移動することになります。

愛媛から東京まで、12~13時間の長旅ですが、気を抜くことはできません。
心身ともにとても疲れましたが、そんな疲れを忘れる瞬間もありました。



雪化粧の富士山。東名高速道路上り、静岡から。
ドライバーさんに聞くと、富士山をきれいに見ることができるのは、5回に1回程度だそうで、今日はとても運が良いと。しかも晴天で雪化粧の富士山となると、ほとんど見ることはないですよ、とも。
しかし、富士山に見とれて、気を緩めるわけにはいきません。責任をもってお届けしなければと気を引き締め直します。

こうして、東京都の所蔵者宅に到着。資料の確認を済ませ、無事に返却が終了しました。

今回の借用先は、個人の方がほとんどであったため、資料の保存方法などもアドバイスさせていただいたり、資料の目録や写真帳を作ってお渡ししたりいたしました。また、今回の展示やシンポジウムを通じて新たにわかったこと、展示中の様子などをお話しさせていただきました。

無事返却が終わり、特別展終了時には得られなった喜びや充実感をようやく感じることができました。しかし、これで肩の荷を下ろすのではなく、将来に渡って良い状態でこれらを残していけるように、お役に立てることがあればお手伝いしていきたいと思っています。(K)